大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京家庭裁判所 昭和28年(家)5525号 審判

右当事者間の昭二十八(家)五五二五号夫婦同居審判事件につき参与員伊勢勝蔵の意見を聴き、左記の通り審判する。

主文

相手方は申立人の現住所に申立人と同居しなさい。

理由

一、相手方は申立人の妻であるが昭和二十七年十二月初め動物園に行くとて子を連れ上京して以来帰宅せず実家江上一郎方に居るので申立人は相手方に同居する様審判を求め相手方はその事実は認めるが帰宅しないことに理由があるから同居しないと答えるので其の事実を調べると、戸籍謄本及中華民国留日僑民登記証の記載、当事者双方の陳述、証人江上一郎同林一同山本けいの各証言並申立人住居臨検の結果を綜合すると左記の事実が認められる。

二、申立人は台湾に出生し十四歳頃から東京に来て引続き居住し○○大学を卒業し、○○省現業員を勤務したが帰国の為め退職となり戦後再び上京して○○市に居を移し飲食業の権利を持ち自動車を所有する程度の生活をして居つた、相手方は東京都○○区○○○○○○町○○○の問屋街に永年糸問屋を営む父江上一郎の長女として生れ中流以上の生活をしつつ○○○高等女学校を卒業後種々技芸を修業中ダンスを修得して居つたところ、昭和二十三年三月頃申立人と相手方はたまたま○○の○○○○ダンス教習所にて知合い、相思の仲となり、熱烈なる恋愛関係に入つて両者結婚を約した。相手方は両親にその承諾を求めたが得られず両親は両者の結婚を避ける様極力手段を尽したが相手方は頑として結婚一路に進み両親に背いて申立人方に赴き遂に事実上婚姻生活を続けたため相手方両親も止むなく承諾する状態となつたので申立人は当時知遇を得た、井沢一夫に謀酌人を依頼し昭和二十五年四月○日○○○○にて結婚式を挙け相手方の親戚知人等が寄合い其披露宴を為し茲に両者の婚姻は社会上通常の形式を踏んで成立し両人は○○市の申立人肩書地に同棲生活を続けることとなつた。そして昭和二十六年五月○日長男幸夫が出生し昭和二十七年十二月○○日婚姻届出を了した。

此の間当時者双方は始めは睦まじく暮したが漸次相手方が実家に行くことが多く其の都度帰宅が遅れがちとなりその為当事者間には日常口論が起る状態であつたが昭和二十七年十二月初め相手方は長男を連れて実家に赴きたるところ翌一月になつても帰宅せず申立人が迎いにきても帰らないので申立人は長男丈けを連れて帰宅し引続き帰宅を追つて居つたが相手方から遂に断固帰宅せぬ意思を発表せられたので申立人は当庁に夫婦同居の調停申立をした(昭和二十八年(家イ)第二九一号)調停期日五回を重ねたが両者の紛争は解決に至らず昭和二十八年五月二十五日調停は不成立に終つたので当然審判手続に移行された。申立人は現在肩書の住居に自炊しつつ幸夫を育て所有自動車により拡声宣伝業を営み一日も早く相手方の帰宅を希つて居る。

相手方は現在実家である父江上一郎方に居つて同居拒否の理由として申立てるところは、申立人の暴行、生活様式の変態、申立人弟等の不良等であるが、暴行と言われる点は両者意見の相違から稀れに手で打つた程度である、生活様式の事柄は単に顔の洗い方とか、食物の好き嫌い等の些細なことで両者睦ましき生活中には問題にならなかつた程度のことである。申立人の弟等の悪質は東京に於て弟等が暴行から警察署に行つたことがある丈で弟等が申立人宅に来ることはないので当事者間の家庭生活には直接影響はない。又相手方両親は元々此の結婚を止むなく承諾したのであるから今に於ては離婚を極力望んで居ることが認められる。

三、当事者は婚姻中であつても現在国籍を異にして居り申立人は中華民国人(相手方は日本人)である。申立人の本国法によれば夫婦は互に同居の義務を負ふ但同居すること能わざる正当の理由あるときは此の限りでないと規定されている。日本民法には此の但書はないが同様に解されるべきであつて夫婦は同居すべきことは本質的に当然であるがその一方が暴行、虐待の常習者であるとか、伝染病又は精神病者であるとか、或は第三者の異性と同居せしむるとか、により同居することが不能、若しくは非常に困難な場合には正当の事由あるものとして同居を拒否することが出来るがその事実がないのに同居を拒むことは法律上許されないものと解する、本件の事実に付き判断すると申立人には狂暴性も不貞行為も認められず其の他社会通念上相手方が同居に堪えられない事実は認められない、只相手方が現在に於て非常に申立人を嫌悪して居る事実及其両親が離婚を望むことは認められるが此等は全く相手方の主観的のことであつて同居を拒むべき客観的の事実がない以上法律上同居の義務があると言はねばならない仍て主文の通り審判する。

尚同居の審判は直接にも間接にも強制執行は許されない、従つて相手方の飜意によらねば実質的に解決は困難である。解決の方途については調停委員会に於て情理を尽して説示してある筈であるから当事者の善処を切望する。

(家事審判官 吉沢直)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!